こんにちは。佐藤研究室修士課程1年のIです。
さて、Aターム(後期)の授業履修も終わり、春休みに突入しました。そこで、あらためて1年間を振り返り、実際に履修して印象的だった国際協力学専攻開講の授業を2つ取り上げ、履修した感想を共有させてもらおうと思います。それぞれ特徴が異なるため、「開発」に関する授業の違いを体感してもらえたらと思います。末部では、子育てをしながら大学院生をやる中での心構えなどにも触れているので、ぜひ最後まで読んでみて下さい。
①佐藤仁先生『開発研究』(国際協力学専攻科目、A1ターム、2単位)
まず初めにご紹介したいのは、やはり、この『開発研究』の授業です。佐藤研究室に所属する私ですが、佐藤先生が担当されている授業を初めて履修できたのが、秋に開講されたこの『開発研究』の授業でした。週2コマで進んでいくこの科目は、課題の読書量が多いことで有名で、先輩からは「試練だよ」と言われていたほどです。実際に受講してみての感想ですが、本当に試練だったなぁ(笑)と思います。
授業内容は、全15回の授業毎にそれぞれ開発協力に関する何かしらの領域が設定され、討論形式で進められます。テーマは例えば「開発と分業」「市場と計画」「意図と結果」などさまざまです。学生は、2~3つの文献を毎回事前に読んでくるよう課されます。全員1度は、他の学生2~3人と共同で授業の発表ファシリテーターを担当することになります。
用いられる文献も実に豊富且つ多様で、スミスの『国富論』をはじめ、ハイエクの『市場・知識・自由』、De Sotoの『THE MYSTERY OF CAPITAL』、ハーシュマンの『開発の診断』など多くの古典が取り上げられました。また、J・スコット『ゾミア』やポラニー『大転換』などの有名な著書もあります。さらにこうした学術書や論文にとどまらず、井上靖『聖者』や井上ひさし『吉里吉里人』など文学作品も用いられました。
討論では、著書の論点で共通する点や相違する点を確認するだけでなく、2つを併せて読むことによってどのようなことが見えてくるか、あるいは、問題をどのように捉えることができるか、などを深く議論していきます。「一見すると“開発”に見えるもの」が、実はどのような様態を呈していて、そこに綻びを生じさせているのか、あるいは、それを受け入れる人々のまなざしはいかなるものなのか、など、人間が本来もつ活力や価値の潜在性にまで遡りながら、人々の意識や社会的規律が形成されていく過程などを丁寧に見ること、更にはそうした人々の行動そのものだけでなく、それらを促している圧力が何であるかに着目することの重要性を認識させられました。
濃密な授業の中で、開発を多角的に見る視点を養うことができたと同時に、開発に対する既成概念を覆させられるような、脳が洗われてブラッシュアップされるような刺激を受けることが出来たように思います。「開発のように見えるもの」の背景にあるする側・される側の人々を押し上げるものや、規律化された社会で見えなくされているものなどを紐解きたい!という方には、ぜひお勧めしたい授業です。
②国際協力学専攻教官が共同担当『フィールドワークの理論と実践』(通年、4単位):
ご紹介したい授業のもう一つは、国際協力学専攻の修士1年生のほぼ全員が履修する、こちらの授業です。授業のタイトルにもある通り、前半Sタームでは参加型やPCM手法といった開発理論や手法を学び、後半のAタームでは実在するJICAのプロジェクトをもとに、課題発掘から案件形成をシミュレーションで企画・立案し、最終発表と報告書作成までの実践を行うことができる授業です。
初めは無事にゴールまでたどり着けるのか未知数で、不安を感じた授業でしたが、結果的には、数か月間の共同作業を通じて、チームワークの素晴らしさを実感することができた授業となりました。
今年はコロナ禍ということもあり、フィールドワークへ渡航することは出来ませんでしたが、例年は、実際に学生が現地へ行き、文字通りの実践をしているようです。また、一年を通して、実際に開発協力の世界で活躍されている研究者や実務者の方々による研究セミナーも全7回実施され、幅広い学際領域における多様なリサーチメソッドを学ぶことが出来ました。
実際のグループ作業では、交通渋滞緩和と防災教育という2つの異なる課題から、自分が取り組みたい課題を各自選択し、同じ分野を選んだ学生同士で7月上旬頃にチーム編成されました。Sタームで学んだノウハウを、自分たちの事業計画にどこまで盛り込めるのか、どの手法が最も適しているか、その実現可能性や妥当性、経済性などを総合的に検討していきます。チームでのグループワークは、述べ15回以上は行ったと思います。
また、私たちの班では、夏休みに入る直前、各自がインターンや帰省で散らばってしまう前に、週1度は必ずオンラインで集まり共同作業をしようと決め、毎度少しずつ分析作業を進めていきました。結果的に、後期に始まってすぐ実施された中間発表や最終報告にも焦らずに臨むことができ、着々と進められたことはとても良かったです。
実際の現地での動きをリアルに想定しながらリサーチ計画を立てたり、各種分析結果をもとにプロジェクト・デザイン・マトリクスを作成したり、実際の活動内容を細分化していったりと、より実務に即した内容をシミュレーションできたことは貴重な体験でした。グループワークではメンバーから様々な意見や視点が持ち寄られ、それらをすり合わせながら事業プランニングを実践することができた経験は、社会に出てからも大いに役立つのではと思いました。
皆さんの中にも、大学院卒業後、開発協力事業の前線で活躍したいと考えている方がおられましたら、とてもいい経験になると思いますので履修をお勧めしたいです。
さて、これまで2つの授業の具体的な内容を見てきましたが、『開発研究』の大量の読書課題をこなしたり、『フィールドワーク理論と実践』でチームで毎回の共同作業を進めつつ最終報告と報告書作成という成果品を作り上げたりするうえで、何よりも欠かせなかったのは、やはりタイム・マネジメントだったと痛感しています。この点、これらヘビー級の2つの科目を、同じ時期に乗り越えることができたことは、今後も私自身の大きな自信に繋がったと言えます。
また、社会人を経験してから学生に戻ってみて思うことは、学生のうちは、研究や授業履修に伴う課題などで多忙とはいえ、やはり社会人と比べてみれば、個人の自由な時間はまだまだ豊富にあると感じます。しかし一方で、私のように母業をしながら大学院生をしていると、幼い子の夜泣きで夜中の課題作業が中断させられたり、子どもの急なケガや病気の介護で予期せず丸3日間も潰れてしまった、なんてことも多々あるのも事実です。子育てしながら学業をやっていると、時には突如別の惑星へと、瞬時にブラックホールで飛ばされるような感覚を覚えたりもしますが、、これもまた学生として自由の身であるからこそ味わえる醍醐味でもあります。素敵な歴史あるゴシック建築の図書館で文献を読んだり、佐藤研究室ゼミを始め多くの授業を履修する中で、多様なバックグラウンドをもつ学生たちと、高度で闊達な議論を交わして刺激を得たりすることができることは、とても恵まれた環境ですし、ここに学びに来られた者の特権であるとも思います。
多忙な日々ではありますが、私にとっては全てのプロセスが最高に楽しい時間です。それもこれも子どもたちが元気でいてくれ、佐藤先生やゼミの同級生や先輩方がいつも温かく見守って励ましてくださるお陰だと思います。今年はいよいよ本格的な修士論文の執筆となりますが、このままアクセルを踏み続けながら、引き続き一つ一つのプロセスを楽しみたいと思います。
皆さんも大学院へ進学されたら、ぜひ日々を愉しむということを意識して過ごしてみてください。一日一日が充実したものであることを願っています。
Comments