文責:松原
1. はじめに
自分に自信があるわけでもないのに、さも知っているかの如く後輩に説明しなければいけないステージに来てしまいました。公共政策大学院の博士課程に在籍しています、松原と申します。研究対象は開発援助機関などの行政組織、特に、公的な政策の実施部門を担う行政法人や公益法人です。
われわれが属する佐藤仁研究室に属する学生は、殆どが新領域創生研究科国際協力学専攻の修士過程と博士過程です。数年に一人くらいの割合で、公共政策大学院や総合文化研究科の学生がこの研究室にお世話になります。通常は本郷キャンパスの居室で研究をしていますが、時々、国際協力学専攻の発表やイベントに出るために柏キャンパスに足を運びます。せっかくですので、今回のブログでは、専攻の外の学生から見た佐藤仁研究室の修士生の研究を記したいと思います。
2. 国際協力学専攻の中での佐藤仁研究室の特徴
この研究室には、他の国際協力学専攻の研究室と比較して次の二つの特徴があると思います。一つは、研究の問題意識と問いへのこだわりです。国際協力学専攻の多くの学生は、自らが関心を持つグローバルな課題(例えば気候問題、災害、食糧自給、貧困といった課題)と関連が見えやすいテーマを選びがちです。自らの研究の価値について多くを語らずともよいテーマを選び、その対象で起きている因果関係を精緻に分析することに重点を置きます。他方で、この研究室では、学生自身が修士論文として取り組みたい(=面白い/解明したいと思える)現象を持ってくることが第一に求められます。ただし、これだけでは自分の好きなテーマを調べただけになってしまいます。だからこそ、自らの注目する現象が「どんな社会問題の一部なのか」を説明する力が求められます。そして、研究室ゼミでは、(1)研究の問いとして面白いか、(2)その問いをどのように位置づければ他人に重要さが伝わるか、という2点を集中的に議論します。もう一つは、定性的手法をとった研究をする学生が多いという点です。決して数学が苦手な学生が集まっている訳ではありません(笑)。上述のように、まずは注目したい現象を探してくることが第一ステップであり、それを深く追求しようとすると定量的手法になりにくいということかと思います。
3. 修士研究に必要な力
佐藤仁研究室に限らずですが、良い修士研究をするためには、研究を遠心方向へと発散させる力と中心方向へと纏め上げていく力の二つが必要です。タイトルにも入れましたが、前者が脚力、後者が腕力のイメージです。
前者の分かりやすい具体例は、面白い現象に出会う力、研究の論証に必要なデータを集める力でしょうか。面白い現象に出会うためには、とにかく色々なところに足を運ぶことです。修士論文を書く段階で必要なデータを集めるためにも、同様に現地や図書館に足繁く通うことが必要です。対して、後者の具体例は、自らの研究を他の先行研究と関連づけて説明する力や、自らの研究を論文という一つのストーリーで書き上げる力です。
そして最も重要なのが、この脚力と腕力を交互に使いながら鍛え上げていくことです。ここで、修士論文執筆最終段階(提出の1〜2ヶ月前)の2つの「あるある」を挙げておきましょう。1つは、半年前に頑張って調べたはずの先行研究の「漏れ」がどんどん見つかります(笑)。これは半年前の自分のミスではありません。データを集め、論文という形に纏めていくなかで、研究の概念や視点を学習し、検索能力があがっているゆえに起きるのです。もう1つは、修士論文が形になってきたところで新しいものに出会うのが怖くなります。半年前にはあんなに楽しかったインタビューや図書館での素材集めが苦しくなります(笑)。半年前にはヒントとして聞いていたものが煩わしくなります(悲)。これは形なってきた論文を壊すような新しいものに出会いたくないという心のあらわれです。
お分かりのように、これらの「あるある」は、修士論文の大詰めでさえなければ、修士研究にとって歓迎すべきものです。重要なのは、この「あるある」が経験できるタイミングを早めることです。そのためには、脚力を使っている段階で腕力を使う(例えば、インタビュー相手A41枚-2枚のレジュメと5分くらいの説明で自分の研究室を伝える)、腕力を使っている段階で脚力を使う(例えば、論文を書いている段階でも別の研究や別の事例に触れて、自分の研究の長所や意義を考え直す)といった工夫をしていくことで、上半身と下半身の連動をさせていくことかと思います。
ほとんどの人が脚力・腕力のどちらかが強く、どちらかが弱いです。自らの良さを消さない程度に、得意でない力を鍛えていくことが修士研究の攻略法です。
4. 最後に
3年間にわたって国際協力学専攻の修士生を見てきて思ったことですが、①自分の取り組みたいテーマに巡り会えるか、②そのテーマをやりきったと言い切れるか、③その研究を他人に重要と分かってもらえるか、という3つ全てを満足にクリアできた学生は一人もいません。
ただし、間違いなく言い切れることは、どの学生も①から③の3つを満足するための時間と機会は与えられていた、ということです。これが言い切れることこそ、本研究室の良さかと思います。気になる進学希望者は、ぜひ見学にいらしてください(※)。
東京大学公共政策学教育部
国際公共政策専攻 松原直輝
※お問い合わせいただければ、ゼミの内容やスケジュールをお伝えした上で、見学日を調整いたします。
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